工場の耐用年数は何年?建物・設備ごとに一覧でわかりやすく解説
目次
はじめに

工場の運営には、建物や設備といった多くの資産が関わっています。
これらの資産にはそれぞれ「耐用年数」が定められており、これは単なる「寿命」ではなく、会計や税務上の重要な基準です。
耐用年数を正しく理解しておくことで、減価償却の計算や税務申告、さらには将来の設備更新の計画にも大きなメリットがあります。
本記事では、工場に関わる建物や設備の耐用年数について、実用的な視点でわかりやすく解説していきます。
耐用年数とは?建物の寿命とは違う?

「耐用年数」とは、固定資産が経済的に価値を持つとされる期間のことを指します。
これは国税庁が定める「法定耐用年数」に基づいており、税務上や会計処理における重要な指標です。
一方、「建物の寿命」とは、実際にその建物が使用可能な期間を意味します。
たとえば、鉄筋コンクリート造の工場建屋は法定耐用年数が38年とされていますが、実際には50年を超えて使われることもあります。
つまり、「耐用年数」はあくまで会計上の基準であり、実際の寿命とは必ずしも一致しません。
耐用年数が重要な理由:減価償却、税務、設備更新計画

耐用年数を知ることには、主に以下の3つの重要な理由があります。
①減価償却の計算
固定資産は購入した年に全額費用計上することはできず、耐用年数に応じて少しずつ費用化(=減価償却)していきます。
正確な耐用年数を把握することで、損益計算が適切に行えます。
②税務対応
税務上も、耐用年数は減価償却費の計算に大きく関わります。
誤った耐用年数を使うと、税務署から指摘を受ける可能性もあるため、注意が必要です。
③設備更新や投資の計画
設備や建物の更新時期を見極めるには、耐用年数が大きな指標となります。
資金繰りや投資計画を立てるうえでも、耐用年数を把握しておくことは欠かせません。
本記事でわかること
本記事では、工場運営に関わる主な固定資産について、法定耐用年数を一覧で紹介します。
対象は、建物・構築物・機械装置・工具・備品など多岐にわたり、それぞれのポイントもあわせて解説していきます。
この記事を読むことで、実務に必要な耐用年数の知識がひととおり身につき、より的確な資産管理・更新計画が立てられるようになるでしょう。
【建物編】工場建物の耐用年数一覧

工場の建物にはさまざまな構造や用途があり、それぞれに応じた耐用年数が定められています。
耐用年数を正しく把握しておくことは、減価償却や資産管理において非常に重要です。
ここでは、構造別・用途別に分けて代表的な建物の耐用年数を紹介し、さらに注意すべきポイントについても解説します。
構造別の耐用年数
建物の構造によって、耐用年数には大きな違いがあります。
以下は主な構造ごとの法定耐用年数です:
📌鉄筋コンクリート造(RC造):47年(一般的な耐用年数)
📌鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造):47年
📌重量鉄骨造(骨格材の肉厚が4mm超):34年
📌軽量鉄骨造(骨格材の肉厚が3mm以下):19年
📌木造:22年(ただし条件により異なる)
これらは国税庁の定める「法定耐用年数」であり、税務や会計処理における基準となります。
鉄骨造や鉄筋コンクリート造は耐久性が高いため、耐用年数も長めに設定されています。
用途別の耐用年数
同じ構造でも、建物の用途によって耐用年数が異なる場合があります。
工場関連の用途別に代表的な例を挙げると、以下のとおりです:
📌工場本体(製造設備が稼働する建物):構造により異なる(例:RC造で47年)
📌事務所用建物:RC造で50年、鉄骨造で34年など
📌倉庫:物品保管のみの用途であれば、鉄骨造で38年など
用途が混在する場合や、建物の一部が居住用として使われている場合には、耐用年数の計算に注意が必要です。
注意点
耐用年数はあくまで「税務・会計上の基準」であり、実際に建物が使用できる期間とは異なる場合があります。
たとえば、定期的なメンテナンスやリノベーションを行うことで、実使用年数を大幅に延ばすことも可能です。
また、中古の建物を取得した場合は「残存耐用年数」を再計算する必要があります。
これは「見積もり法」または「簡便法」によって算出され、資産評価や減価償却に影響を与えます。
【設備編】工場設備の耐用年数一覧

工場における「設備」は多岐にわたります。
生産設備はもちろん、電気設備、空調や給排水設備、さらには事務用の備品まで、すべてに耐用年数が設定されています。
これらを把握することで、減価償却の計算、更新タイミングの把握、コスト管理などに役立ちます。
本章では、設備のカテゴリ別に法定耐用年数を解説します。
生産設備の耐用年数
生産工程の中心となる設備の耐用年数は、機械の種類や製造業の区分により異なります。
📌工作機械(旋盤、フライス盤など):10年
📌プレス機械(成形・板金用):10〜12年
📌溶接機、切断機:7〜10年
一般に機械装置の法定耐用年数は「製造業用機械装置」として分類され、製造方法や加工内容によって細分されます。
導入時には用途と区分を正しく判断することが大切です。
電気設備の耐用年数
工場全体の電力を支える電気設備も、重要な固定資産です。
📌受変電設備(変圧器、分電盤など):15年
📌動力配線設備(モーター用など):10年
📌照明設備(蛍光灯・LEDなど):6年
照明設備については、蛍光灯からLEDへの更新など、技術革新によって実質的な耐用年数が延びているケースもありますが、税務上は設置年時点の分類に従います。
給排水・衛生設備の耐用年数
快適な作業環境や衛生管理に関わる設備も、定められた耐用年数があります。
📌給水設備(ポンプ、配管など):15年
📌排水設備(排水管、浄化槽など):15年
📌空調設備(エアコン、換気装置など):13年
空調設備は比較的早く更新が必要になる設備の一つで、老朽化やエネルギー効率の低下によって更新サイクルが短くなることもあります。
運搬設備の耐用年数:クレーン、フォークリフトなど
工場内の物流や搬送に用いられる設備にも耐用年数が定められています。
📌天井クレーン・ホイスト:10〜13年
📌フォークリフト(バッテリー式・エンジン式):5〜7年
フォークリフトは移動機器として扱われるため、減価償却も早めの設定となっています。
稼働頻度が高い設備だけに、メンテナンスと耐用年数の管理が重要です。
その他の設備の耐用年数:事務機器、消防設備など
工場内の付帯設備やバックオフィス系の資産も、忘れずに管理すべき項目です。
📌事務機器(コピー機、パソコンなど):5年
📌消防設備(消火器、スプリンクラー等):10〜15年
📌監視カメラ・セキュリティ設備:6〜10年
これらの設備は小規模ながら多数存在するため、一括して資産管理システムに登録するなど、管理の効率化が求められます。
注意点
同じ設備でも、「どう使われているか」によって耐用年数は変わることがあります。
例えば、建設業で使われる機械と、製造業で使われる同型機械では、法定耐用年数が異なることがあります。
また、設備を中古で取得した場合には、「見積もりによる残存耐用年数の再設定」が必要です。
これは、専門家による評価や税理士との相談が必要になるケースもあるため、注意が必要です。
耐用年数と減価償却の関係

工場や企業が保有する資産は、時間の経過とともに価値が減少していきます。
この価値の減少を会計上で表現する仕組みが「減価償却」です。
そして、この減価償却を正しく行うための基準となるのが「耐用年数」です。
耐用年数と減価償却は密接に関係しており、企業の経営計画や税務処理に大きな影響を与えます。
減価償却とは?耐用年数との関連性

減価償却とは、固定資産の購入費用をその資産の使用可能期間(耐用年数)にわたって、少しずつ費用として配分していく会計処理のことです。
例えば、1,000万円の機械を購入し、耐用年数が10年と定められていれば、毎年100万円ずつを費用として計上する、という考え方になります(※定額法の場合)。
この「費用化の期間」を決めるのが耐用年数であり、税務上の処理、利益の計上タイミング、資金繰りの見通しにまで関わってきます。
減価償却の計算方法(定額法・定率法など)
減価償却の方法には主に以下の2つがあります。
1. 定額法(ていがくほう)
毎年、同じ金額を均等に償却していく方法です。初年度から最終年まで、年間の費用が一定のため、計画が立てやすいのが特徴です。
現在では中小企業を中心に広く採用されています。
例:1,000万円の資産を10年で償却
→ 毎年100万円ずつを償却
2. 定率法(ていりつほう)
毎年、残存簿価に一定の割合をかけて償却する方法で、初年度に多く、年を追うごとに償却費が減っていくのが特徴です。
大企業や資産を早期に費用化したい企業に向いています。
例:1,000万円の資産を定率法・耐用年数10年・償却率0.2で償却
→ 初年度は200万円(1,000万×20%)、2年目は800万円×20% = 160万円…と減っていく
※現在では、建物を除く多くの資産について「定額法」が原則とされています(法人税法改正により変更あり)。
耐用年数の違いが減価償却費に与える影響
耐用年数が長くなるほど、1年あたりの減価償却費は少なくなります。
逆に、耐用年数が短いほど、より早く費用計上され、初期年度の利益が圧縮される傾向にあります。
資産価格 | 耐用年数 | 年間償却費(定額法) |
1,000万円 | 10年 | 100万円 |
1,000万円 | 5年 | 200万円 |
このように、同じ資産価格でも、耐用年数の違いで減価償却費が変わってくるため、企業の利益計画や税額に直接影響を及ぼします。
また、中古資産の導入や、法定耐用年数外の処理を行う場合には、残存耐用年数の見積もりも重要になります。
工場の設備を長持ちさせるためのポイント

設備投資には多額のコストがかかるため、導入した設備をできるだけ長く、安定して使い続けることが求められます。
設備の実際の寿命(実用耐用年数)を延ばすためには、日々の使い方や管理体制が非常に重要です。
ここでは、工場の設備を長持ちさせるための基本的なポイントを解説します。
定期的なメンテナンスの重要性
どれほど高性能な設備でも、使いっぱなしでは早期に劣化してしまいます。
定期的なメンテナンス(保守点検)は、設備の寿命を延ばす最大のカギです。
📌稼働時間に応じたオイル交換や部品交換
📌清掃・潤滑・ねじ締めなどの日常点検
📌メーカーによる定期点検契約の活用
小さな異常を早期に発見し、大きな故障につながる前に対処することが、トラブル防止と長寿命化に直結します。
適切な使用方法と管理
設備は「正しく使う」ことで、本来の性能を発揮し、長持ちさせることができます。
次のような日常管理が効果的です:
📌取扱説明書に基づいた操作:無理な使い方をしない
📌使用記録の蓄積:いつ、誰が、どのように使用したかを記録
📌教育・訓練の徹底:オペレーターのスキル不足が故障原因になることも
また、設備の保管環境(湿度・温度・埃など)にも注意が必要です。
特に電子機器や精密機械は、環境要因で劣化が早まることがあります。
計画的な修繕と更新
いくら丁寧に使っても、設備にはいつか寿命が訪れます。
突発的な故障で生産ラインが停止してしまわないよう、「計画的な修繕」と「更新タイミングの見極め」が重要です。
📌耐用年数やメーカー推奨寿命をもとに交換計画を作成
📌故障履歴をもとにリスクの高い設備を優先的に更新
📌可能であれば、IoTやセンサーを用いた予知保全の導入も検討
定期メンテナンスだけでなく、「あえて新しい設備に入れ替える」という判断が、長期的にはコスト削減につながることもあります。
耐用年数に関するQ&A

工場設備や建物の管理を行う中で、「この場合の耐用年数はどうなるの?」「耐用年数を過ぎたらどうすればいいの?」といった疑問に直面することは少なくありません。
ここでは、現場でも特に多く寄せられる耐用年数に関する質問とその答えをまとめました。
中古の工場設備を購入した場合の耐用年数は?
Q:中古で購入した設備には、法定耐用年数がそのまま適用されるのですか?
A:いいえ。中古資産は、原則として「見積もりによる残存耐用年数」で減価償却を行います。
具体的には、以下のいずれかの方法で耐用年数を決定します:
🔸見積耐用年数方式:専門的な知見をもとに、実際にあと何年使えるかを合理的に見積もる(税理士や設備メーカーが協力する場合が多い)。
🔸簡便法:新品時の法定耐用年数をもとに、すでに使用された年数を考慮して「(法定耐用年数−経過年数)+経過年数×20%」で耐用年数を再計算。
中古機械はコストメリットが大きい反面、耐用年数の判断が難しいので、税務署や専門家との相談が不可欠です。
耐用年数を超えた設備は使用できない?
Q:耐用年数を過ぎた設備は廃棄しなければならないのですか?
A:いいえ。耐用年数は“税務上の償却期間”であり、実際の使用可否とは関係ありません。
耐用年数は、あくまで「帳簿上でいつまで費用化できるか」という基準です。
実際には、耐用年数を超えても性能に問題がなければ、引き続き設備を使用することができます。
ただし、減価償却が終了した資産は、帳簿上は「簿価ゼロ」になります。保守コストや故障リスク、更新タイミングは定期的に見直しましょう。
耐用年数の変更は可能?
Q:一度設定した耐用年数をあとから変更できますか?
A:基本的には変更できませんが、例外的に認められるケースもあります。
通常、法定耐用年数や見積もりによって設定された耐用年数は、原則として変更不可です。
ただし、以下のようなケースでは変更が認められることもあります:
✅大規模な改修・オーバーホールを実施した場合(機能・性能が明らかに向上したと判断されるとき)
✅税務署長の承認を得た場合(見積耐用年数の修正など)
変更を行う際は、専門家との協議と根拠資料の準備が不可欠です。
むやみに変更すると税務調査で否認されるリスクもあるため、慎重に対応しましょう。
まとめ

工場運営において、建物や設備の「耐用年数」を正しく理解することは、単なる会計処理のためだけではありません。
減価償却や税務戦略、設備更新計画、メンテナンス管理など、経営のあらゆる場面に影響を与える重要な要素です。
本記事では、以下のようなポイントを解説してきました:
✅耐用年数の基本的な定義と、建物の寿命との違い
✅減価償却との関係や計算方法(定額法・定率法)
✅設備カテゴリごとの法定耐用年数の目安
✅設備を長持ちさせるためのメンテナンスと運用の工夫
✅中古資産や耐用年数超過資産への対応方法
これらを踏まえ、工場の資産を「どのように使い、どのタイミングで更新していくか」を見える化することで、無駄なコストを削減し、安定した生産体制を維持できます。
とくに今後は、IoTやAIの導入による予知保全なども視野に入れ、よりスマートな設備管理が求められる時代です。
法定耐用年数だけにとらわれず、実態に即した柔軟な判断と、現場主導の運用管理が、これからのモノづくり企業には欠かせません。
まずは自社の設備台帳を見直し、現状の耐用年数管理が適切かチェックすることから始めてみてください。
その一歩が、将来の設備トラブルや不要な出費を未然に防ぎ、より強い工場経営を実現することにつながります。
この記事が、みなさまの工場の耐用年数に関する情報収集の一助となれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。